・・・印南野は、寂しいところだった。西の国から一人の旅人が都へ急いでいた。日が暮れてしまった。辺りを見渡したら、一軒の小さな廃屋があった。夜がふけたが、その夜は、なかなか寝つけなかった。遠くから念仏を唱える声が聞こえた。松明をかざし、葬式のようだった。
家の前に来ると土を堀り、棺を埋めはじめた。葬式の後である。墓を見ていると、なにかが動きだした。「はて?」とよく見ると、裸の人が土の中から出てきた。そしてこちらへ向かってきたのである。「危ない!・・」と思い、旅人は家を出て、その怪物に切りつけた。確かに手ごたえはあった。
旅人はあまりの恐ろしさに、後を見ず、いちもくさんに走った。人家のあるところにたどりついた。朝になっていた。
この話を聞いた村人は、旅人と一緒にその場所へ引き返した。
そこには大きな野猪が切り殺されていた・・・・

